【家族向け】認知症の「帰宅願望」とは?4つの原因と正しい対応・声かけをプロが解説

「施設に入居した親が、面会のたびに『家に帰りたい』と言ってくる…」
認知症の方に見られる「帰宅願望」は、多くのご家族が直面するお悩みです。

「施設に入れたのは間違いだったのでは」とご自身を責めてしまう方も多いでしょう。

しかし、帰宅願望は病気による症状であり、ご本人の性格やわがままによるものではありません。

適切な声かけや環境作りによって、症状を落ち着かせることは十分に可能です。

この記事では、帰宅願望が起こる原因から、ご家族がすぐに実践できる効果的な対応法、具体的な声かけの事例までを解説します。

ご本人とご家族が安心して過ごすためのヒントとしてお役立てください。

目次

認知症における「帰宅願望」とは?

帰宅願望とは、介護施設や病院などで暮らす高齢者が「家に帰りたい」と強く訴えたり、実際にその場所から外に出て行こうとしたりする状態のことです。

特別養護老人ホームを対象としたある調査では、BPSD(認知症の行動・心理症状=周辺症状)の内容として、帰宅願望は22.1%を占めていることが分かっています。

つまり、施設に入居している認知症の方の約5人に1人が経験する症状であり、決して珍しいものではありません。

認知症の症状の一つとして現れることが多く、ご本人にとっては「本当に今すぐ帰る必要がある」と感じるほど、強い思い込みと焦燥感が生じています。これは単なる問題行動ではなく、「現在の環境への不安や混乱」「安心できる居場所を求める心理の表れ」として理解することが非常に重要です。

なぜ「家に帰りたい」と言うの?帰宅願望が起こる5つの主な原因

帰宅願望は、本人の性格によるものではなく、病気の進行や心身の状態が複雑に影響して現れます。なぜ「帰りたい」という気持ちが強くなるのか、その主な原因を5つに分けて詳しく解説します。

① 記憶障害や見当識障害による混乱

認知症の初期症状の一つに「見当識障害」というものがあります。これは、自分の置かれている状況、季節や時間、場所、周囲の人を正確に認識できなくなる障害です。

認知症が進行すると、この障害によって「なぜ自分が老人ホームにいるのか」が分からなくなり、「ここは自分の家ではない」と感じやすくなります。

時間や場所の認識が曖昧になることで、「妻が家で待っているから帰らないと」「早く帰らなければならない」といった思い込みが生じ、それが帰宅したいという行動欲求として表れます。

② 環境の変化や慣れない場所での不安

認知症の方は、状況を正確に理解する力が低下しているため、新しい環境や慣れない場所に置かれると健常者以上に強い不安を感じやすくなります。

施設に入居した直後などは、周囲の知らない音や人、これまでの自宅とは違う生活リズムの変化が重なります。

その結果、「ここは自分の居場所ではない」という感覚が生じ、最も安心できる場所として記憶している「自宅」へ戻ろうとする気持ちが高まるのです。

この強い不安感が、帰宅願望の大きな引き金となります。

③ 夕暮れ症候群(黄昏泣き)の発症

帰宅願望は、1日のうちでも特に「夕方から夜にかけて」強く現れる傾向があります。

これを「夕暮れ症候群」と呼びます。

夕方になると、学校や職場から家族が帰宅したり、夕食作りを始めたりと、世の中全体が忙しく動く時間帯になります。

施設においても送迎の時間などで人の出入りが激しくなり、周囲の慌ただしい状況にそわそわして落ち着かなくなります。日没に伴う光の変化なども要因となり、「そろそろ帰宅の時間だ」「自分も帰らなければ」と誤認しやすくなるのです。

また、1日の疲労や緊張が積み重なる時間帯でもあるため、「休みたい」という欲求が行動として表れやすくなります。

④ 役割の喪失感や孤独感の出現

認知症が進行すると、これまで当たり前にこなしてきた仕事や家事、地域での役割を果たせなくなる場面が増えていきます。

施設での生活は身の回りの世話をしてもらえる反面、「自分は必要とされていないのではないか」「ここで何をすればいいのか分からない」といった強い喪失感や孤独感が生じるケースが少なくありません。

かつて自分が活躍していた場所(職場や昔の家)に戻ることで、自分の存在価値や役割を取り戻そうとする心理が働いていると考えられます。

⑤ 介護されている自分を認めたくないという抵抗感

ご自身のプライドや、現在の状況を受け入れられない気持ちから帰宅願望が生じることもあります。

ご本人の中では「自分はまだ元気で、人の世話になる必要はない」という意識が残っている場合、施設での介護を受けることに抵抗を感じ、「自分の家で自立して生活したい」という思いが「帰りたい」という言葉になって表れることがあります。

認知症の種類によって異なる症状と特徴

帰宅願望への対応を適切に行うには、認知症そのものへの理解を深めることも欠かせません。認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ原因や症状の現れ方が異なります 。代表的な4つのタイプの特徴を整理しました。

認知症の種類主な症状と帰宅願望に関する特徴
アルツハイマー型認知症最も多く見られるタイプで、脳内にアミロイドβという老廃物(たんぱく質)が蓄積して神経細胞が壊れることで起こります。物忘れから始まり、徐々に理解力や判断力に影響が出ます。
新しい出来事を覚えられず、時間や場所の感覚が混乱するため 、「ここはどこだ」という不安から帰宅願望に繋がりやすい傾向があります。
レビー小体型認知症実際には存在しないものが見える「幻視」や、手足が震えるなどのパーキンソン症状が現れるのが特徴です。
幻視によって「家族が迎えに来てあそこで待っている」と思い込み、帰ろうとすることがあります。
血管性認知症脳梗塞や脳出血などが原因で起こります。できることとできないことの差が激しい「まだら認知症」や、感情のコントロールが難しくなる「感情失禁」が見られます。些細なことで突然怒り出し、「こんな所にはいられない、帰る!」と強く訴えることがあります。
前頭側頭型認知症脳の前頭葉や側頭葉が萎縮するタイプです。性格が急に変わったり、毎日同じ時間に同じ行動をとらないと気が済まない「常同行動」が見られたりします。「毎日夕方5時には家に帰る」というルーティンに固執し、強い意志を持って外に出ようとすることがあります。

ご自身の家族がどのタイプの認知症に当てはまるのかを理解しておくことで、行動の背景や適した関わり方を考えやすくなります。

家族・施設ができる適切な対処方法・声かけ5選

帰宅願望がある方の原因には「不安」が根本に含まれており、その原因に沿って対応することが非常に重要です。ここでは、ご家族や介護スタッフが共通して押さえておくべき対応のポイントと、具体的な声かけの方法を5つ紹介します。

①否定せずに気持ちを受け止める

「もう退職してますよ」と現実を突きつけて否定するのはNGです。まずは「お家に帰りたいですよね」と共感し、帰宅したい理由の聞き役になりましょう。

② 興味をそらして気分転換を図る

無理に引き止めると興奮しやすくなります。穏やかに話を聞き、落ち着いてきたタイミングで「ご飯を食べていきませんか?」と別の行動へスムーズに誘導するのがコツです。

③ 自宅のような安心できる環境をつくる

使い慣れた湯呑みや写真など、本人の馴染み深いものを部屋に置きましょう。見慣れたものがあるだけで、ご自宅のように心が落ち着く空間になります (※持ち込みルールは事前に確認してみてください )。

④ 施設内での「居場所」と「役割」をつくる

「自分がやらなければ」と思える役割があると、帰宅願望が和らぎます。昔の趣味や得意なこと(手芸を教える、旅行先を教えるなど)を引き出し、施設での役割を持たせてあげましょう。

⑤ 施設の退去要件を事前に確認しておく

帰宅願望が解消されず「退去になるのでは」と焦るご家族も多いです。不安を抱え込まず、事前に施設側へ退去要件を確認し、長期的な目線で相談しておきましょう。

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まとめ:帰宅願望は「安心を求めるサイン」です

認知症の帰宅願望は、ご家族にとっても精神的な負担が大きい症状です。面会のたびに「帰りたい」と言われると、胸が締め付けられるような思いをされることでしょう。

しかし、今回解説したように、帰宅願望は「安心できる場所を探している」という本人の心のサインです。

原因となっている不安(見当識のズレ、環境の変化、役割の喪失など)を理解し、決して否定せずに気持ちを受け止めること。そして、気を逸らしたり、役割を持たせたりすることで、少しずつ施設を「自分の居場所」として認識してもらうことが解決への近道となります。

ご家族だけで抱え込まず、施設のケアマネージャーや介護スタッフと情報共有を行いながら、ご本人にとって最も心地よい環境を一緒に作っていきましょう。

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